← JIPA OI-WG ― 問いと軌跡 ROLE-PLAY CASE STUDY
B1 / 基礎コース / 視点切替デモ

開示のジレンマ

秘密情報の定義を最大化した知財担当が、なぜ「組む気がない人」に見えるのか。
同じ事件・同じ時系列を、5つの役の「知っていることだけ」で読み直す。

形式 NDA交渉 ・ 5役 ・ 想定3時間時計 初回ミーティングまで2週間 / 役員会の発表期限まで3ヶ月
STEP 01

役割を選ぶ

タブを切り替えると、ハンドアウトと、下の3場面の読み方が入れ替わる。左右にスクロールできます。
読みながら視点を変えるときは、各場面の〈↔〉ボタン(その場面でいちばん遠い読み手へ飛ぶ)か、上部に貼り付く視点セレクタを使う。画面の位置は動かない。

大和化成(中堅素材メーカー)

知財担当 主役

01共通情報 ── 全員が読んでいるもの

中堅素材メーカー・大和化成は、スタートアップ Helix Materials の触媒技術に注目し、協業可能性を探るNDA交渉に入った。

初回ミーティングは2週間後。両社から合わせて5名が出る。

この時点で交わされているのは、技術分野と協業の意向だけ。数値も、レシピも、まだ何も渡っていない。

02あなただけが知っていること
  • 自社には、Helixの触媒に近接する休眠特許がある。交渉が壊れても、単独開発の余地を主張できる。
  • Helixの特許は基礎出願のみで、実施例が薄い。無効化も回避も、やろうと思えばできる。割符 / Helix Materials・CTO(知財兼務) と対。Helix CTO も自社出願のこの弱さを知っている。互いに同じ一点を握り合っている。
03言いにくい真実

三年前、別の共同研究で技術が流出し、社内で責任を問われた。あのとき「定義が狭かった」と指摘された記憶が、いまの雛形を書かせている。

04あなたの目標

情報流用リスクを限りなくゼロに近づける。同時に、隠し評価で信頼を得る。この二つは、教科書どおりに動くかぎり両立しない。そう配線されている。

「共通情報」はどの役でも同一である。変わるのは 02〜04 の3ブロックだけ。 割符と記された情報は、片方だけでは意味をなさない ── 開示しなければ、互いに価値を測れない。

大和化成・知財担当

STEP 02

同じ交渉を、別の視点で読む

3つの場面はどの役でも同じ順に起きる。各場面の末尾に置かれた 「同じ行動」が、視点によって反転する。 読みながら視点を変えるときは、上に貼り付く「いま読んでいる視点」か、 各場面の〈↔ この行動を…の視点で読む〉を押す。位置は動かない。

場面 1

初回会議

Day 0
起きたこと(全員に共通)

両社5名が会議室に集まった。技術の概要説明のあと、NDAのドラフト交換に入る。大和化成の知財担当が持参した雛形は、秘密情報を「開示の形式・媒体を問わず、本件に関連して知り得た一切の情報」と定義していた。

大和化成・知財担当 の内心

この雛形を通せば、少なくとも私は責められない。三年前と同じ轍は踏まない。

同じ行動

秘密情報の定義を「本件に関連して知り得た一切の情報」へ広げる

A大和化成・知財担当 の読み

口頭開示も、ホワイトボードも、雑談で出た数値も落とさない。定義を狭く切れば、後から「それは秘密指定されていない」と言われて終わる。当然の防御だ。

↕ 同じ一つの行動

BHelix Materials・CTO(知財兼務) の読み

来た。「一切の情報」——うちの全てを縛る気だ。前職で見た形と同じだ。大企業の知財部門は、まず相手の手足を縛ってから、中身をゆっくり見に来る。

場面 2

残留記憶条項で紛糾

Day 14
起きたこと(全員に共通)

二週間が過ぎた。交渉は残留記憶条項(Residual Knowledge)で止まっている。大和化成は「開示を受けた者の記憶に残った情報も、本契約の秘密保持義務の対象とする」の一文を譲らない。同じ頃、大和の事業開発に「帝都マテリアルがHelixに接触した」という報が入る。

大和化成・知財担当 の内心

事業開発が焦っているのは分かる。だが焦りで条項を落として、三年前を繰り返すわけにはいかない。

同じ行動

残留記憶条項(記憶に残った情報も秘密保持の対象とする)を要求し続ける

A大和化成・知財担当 の読み

流出は、書類が持ち出されて起きるのではない。人の頭に入って、次の職場で再現されて起きる。三年前がまさにそれだった。ここを外せば、守っていないのと同じだ。必須条項である。

↕ 同じ一つの行動

BHelix Materials・CEO の読み

弁護士に確認した。これを飲むと、うちの技術者が今後どこで何を作っても大和から追及されうる、と。PoCの前に弁護士費用で死ぬ。帝都に電話しよう。

場面 3

締結期限前夜

Day 21 / 分岐点
起きたこと(全員に共通)

役員会の発表期限まで10週。Helixのランウェイは残り7ヶ月半。決裂寸前の場で、大和化成の知財担当が別の紙を出す。「秘密情報を一括で定義するのをやめ、開示を三段階に分け、段階ごとに検証ゲートを置く」。残留記憶条項は、関与者限定・期間限定・競合開発の一時停止(stand-still)に置き換える。

大和化成・知財担当 の内心

この提案は、私の減点になるかもしれない。完全防御ではないからだ。だが二週間で学んだのは、守り切った契約書とは、守るものが何も入ってこない契約書だということだ。

同じ行動

一括定義をやめ、三段階の開示ゲート方式を提案する(この提案は知財担当からしか出ない)

A大和化成・知財担当 の読み

守る範囲を狭めたのではない。守る対象を、守れるものに絞り替えた。第一段階では性能データだけを第三者立会いで確認し、レシピは契約前に一度も渡らない。私が責任を負える線は、むしろこちらの方が引きやすい。

↕ 同じ一つの行動

BHelix Materials・CTO(知財兼務) の読み

レシピを渡さずに価値を証明する道が、よりによって相手側の知財担当から出てきた。この順番なら、こちらの実施例の薄さも露見せずに済む。組んでもいい相手かもしれない。

5つの視点のうち 1 つを読んだ

  • 大和化成・知財担当
  • 大和化成・事業開発
  • 大和化成・研究所主任
  • Helix Materials・CEO
  • Helix Materials・CTO(知財兼務)

残りの視点も開いてから、評価の開示へ進んでください。

WIRING

この卓の配線

  1. 最も警戒し合う二人(大和・知財 × Helix・CTO)が、互いの弱点を割符で握っている。話さなければ、最も損をするのはこの二人である。
  2. 事業開発の役員会と、CEOのランウェイ。二つの時限爆弾が、卓の外側からではなく内側から時間圧を生む。
  3. 「残留記憶条項で揉めて2週間を浪費する」ルートと「開示範囲を三段階に区切り、段階ごとに検証ゲートを置く」ルートが用意されている。後者は、知財担当の提案でしか開かない。