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B3 / 基礎コース / 視点切替デモ

名前の載らない発明者

発明届どおりに出した単独出願が、なぜ相手の次の改良を止めたのか。
同じ事件・同じ時系列を、5つの役の「知っていることだけ」で読み直す。

形式 共同開発・改良発明 ・ 5役 ・ 想定3時間時計 量産ライン立上げまで5ヶ月 / 単独出願の審査請求期限まで1年半
STEP 01

役割を選ぶ

タブを切り替えると、ハンドアウトと、下の3場面の読み方が入れ替わる。左右にスクロールできます。
読みながら視点を変えるときは、各場面の〈↔〉ボタン(その場面でいちばん遠い読み手へ飛ぶ)か、上部に貼り付く視点セレクタを使う。画面の位置は動かない。

碧海デバイス(大手電子部品メーカー)

知財担当 主役

01共通情報 ── 全員が読んでいるもの

大手電子部品メーカー・碧海デバイスは、次世代センサ基板の切断工程を、レーザ加工装置メーカー・北斗レーザ工業と2年前から共同開発してきた。基本技術は両社の共同出願で権利化を進めている。

共同開発契約には秘密保持条項と、改良技術について「両社は誠実に協議する」という一文がある。

先週、北斗の開発課長が、碧海の単独名義で出願された特許の公開公報を見つけた。発明の名称は「レーザ切断方法」。発明者欄には碧海の技術者2名の名前だけが並んでいる。

北斗の社長は、碧海に面談を申し入れた。碧海の量産ライン立上げは5ヶ月後に迫っている。

02あなただけが知っていること
  • 公開された単独出願は、社内規程どおりに処理した。生産技術から発明届が出て、発明者欄は2名、「社外の関与」欄は「なし」だった。手続きに瑕疵はない。
  • 共同開発契約の改良技術条項は「誠実に協議する」の一文だけで、出願前の通知義務も帰属の定めもない。北斗を縛れないが、北斗も碧海を縛れない。割符 / 北斗レーザ工業・社長 と対。北斗の社長も、顧問弁護士から同じ指摘を受けている。両社とも、相手を縛れない同じ一文を握っている。
  • 審査請求はまだしていない。特許を受ける権利の持分を移し、出願人の名義を変える手続きは、いまならまだ取れる。
03言いにくい真実

前任の時代に、共同出願の持分交渉で一年揉めた案件があり、事業部から「知財が遅い」と名指しされた。それ以来、社外が絡む改良は「まず単独で出して、後で整理する」を自分の流儀にしてきた。

04あなたの目標

改良技術の権利を確保する。同時に、隠し評価で信頼を得る。発明届が正しいかぎり、この二つは両立する。発明届が正しいかぎりは。

「共通情報」はどの役でも同一である。変わるのは 02〜04 の3ブロックだけ。 割符と記された情報は、片方だけでは意味をなさない ── 開示しなければ、互いに価値を測れない。

碧海デバイス・知財担当

STEP 02

同じ交渉を、別の視点で読む

3つの場面はどの役でも同じ順に起きる。各場面の末尾に置かれた 「同じ行動」が、視点によって反転する。 読みながら視点を変えるときは、上に貼り付く「いま読んでいる視点」か、 各場面の〈↔ この行動を…の視点で読む〉を押す。位置は動かない。

場面 1

照会への回答

Day 0
起きたこと(全員に共通)

北斗の社長と開発課長が碧海を訪れた。社長は公開公報の写しを机に置き、「この発明は、うちの課長が打合せで説明した内容ではないか」と穏やかに尋ねた。碧海の知財担当は、用意してきた回答を読み上げる。「本出願は社内の発明届に基づき適正に出願したもので、共同開発契約上、出願前の通知義務は定められていない」。

碧海デバイス・知財担当 の内心

公報を見て駆け込んでくる相手には、最初に線を引いておかないと、後から持分も実施料も全部持っていかれる。

同じ行動

社内の発明届と契約の文言を根拠に、単独出願の正当性を回答する

A碧海デバイス・知財担当 の読み

発明届があり、手続きは規程どおり。契約にも通知義務はない。ここで情に流されて認めれば、出願の正当性も、社内の発明届制度も揺らぐ。根拠を示して答えるのが知財の仕事だ。

↕ 同じ一つの行動

B北斗レーザ工業・社長 の読み

「通知義務は定められていない」。つまり、書いていなければ何をしてもいい、ということだ。2年間のパートナーという言葉は、契約書の外には存在しなかった。

場面 2

立上げの停滞

Day 21
起きたこと(全員に共通)

三週間が過ぎた。北斗からの改良提案はぴたりと止まり、立会いの技術者は「社内条件は開示できない」と口数が減った。碧海の量産ラインは歩留まりが上がらない。事業部長に、競合のセンサメーカーが北斗の装置を試験導入したという報が入る。碧海の知財担当は再発防止策として、「共同開発中に生じた改良技術はすべて碧海に帰属する」という覚書案を北斗に送った。

碧海デバイス・知財担当 の内心

曖昧さが紛争を生んだのだから、ルールを明確にすればいい。これで筋は通る。

同じ行動

改良技術の帰属を碧海に一本化する覚書を、再発防止策として提示する

A碧海デバイス・知財担当 の読み

揉め事の根は、契約の改良条項が曖昧なことにある。帰属を一本化しておけば、二度とこうした紛争は起きない。発注者として当然の要求でもある。

↕ 同じ一つの行動

B北斗レーザ工業・社長 の読み

取っておいて、次からは全部よこせ、と書いてきた。この紙に判を押せば、碧海以外に装置を売るたびに、改良を差し出すことになる。競合への返事を書こう。

場面 3

発明者の調べ直し

Day 35 / 分岐点
起きたこと(全員に共通)

立上げまで3ヶ月半。碧海の知財担当は、覚書を押す前に一つだけ確かめることにした。生産技術リーダーへの発明者ヒアリングである。合同打合せの日付、ホワイトボード、誰が何を言ったか。聞き取りのあと、知財担当は北斗に別の紙を出した。「審査請求前の単独出願について、特許を受ける権利の持分を北斗に移し、共同出願人として名義を変更する。北斗の開発課長を発明者に加える。あわせて改良技術は、見つけた側が相手に通知し、出願の形を協議で決める双方向のルールとする」。

碧海デバイス・知財担当 の内心

自分の流儀は「まず単独で出して、後で整理する」だった。その「後」が来る前に、相手は次の改良を閉じていた。

同じ行動

自社の単独出願を、自分から共同出願に戻す(この提案は知財担当からしか出ない)

A碧海デバイス・知財担当 の読み

ヒアリングで分かった。北斗の課長を落とした単独出願は、権利になっても共同出願違反という無効理由を抱え、移転請求の的にもなる。守ったつもりの権利が、いちばん脆かった。名義を戻すのは譲歩ではない。権利を有効な形に直す作業だ。

↕ 同じ一つの行動

B北斗レーザ工業・開発課長 の読み

発明者欄に、自分の名前が入る。……それなら、焦点位置の案を話してもいい。話すなら今度は、打合せの議事録に提案者の名前を書いてもらう。

5つの視点のうち 1 つを読んだ

  • 碧海デバイス・知財担当
  • 碧海デバイス・生産技術リーダー
  • 碧海デバイス・事業部長
  • 北斗レーザ工業・社長
  • 北斗レーザ工業・開発課長

残りの視点も開いてから、評価の開示へ進んでください。

WIRING

この卓の配線

  1. いちばん話しにくい二人(碧海・生産技術 × 北斗・開発課長)が、アイデアの出所を割符で握っている。生産技術が口を開かないかぎり、知財担当は自分の出願が正しいと信じたまま動く。
  2. 改良条項の一文の弱さを、碧海・知財と北斗・社長が同じだけ知っている。契約の文言で決着をつけようとすると、両者とも相手を縛れないことが露わになるだけである。
  3. 「契約上の義務はない」と回答し帰属を一本化するルートと、「発明者を調べ直し、自分の単独出願を共同出願に戻す」ルートが用意されている。後者は、出願人の名義を動かせる知財担当からしか出ない。